アイヌ民族は藍染を行っていたのでしょうか
★ 仮にアイヌ民族が藍染を行っていたと想定して、藍染に必要な諸条件を考えて見ました
• 生葉で染める~
最も簡易な染め方で、葉をすり潰した液を直接繊維に浸み込ませる。
生葉で染められる繊維は動物性のものに限定されます。対象としては、冬期に白毛になるエゾユキウサギ・エゾクロテンの他、白毛の犬、野蚕(クスサン・オオミズアオなどの繭)などが思い当たるのですが、採取したこれらの繊維は紡いで糸にする技術が必要です。ここで言う 「紡ぎ」 とは、綿状の繊維を引き出して撚りをかけることを指し、樹皮や草皮を細長く裂いて撚りをかける 「績み」 とは区別します。
• 乾燥葉で染める ~
藍建ての工程を経て染める。
【発酵還元】
発酵を促すために藍染液をPH11・液温25℃前後で管理します。常温管理(無加温)だと藍染可能な期間はせいぜい七月中旬~八月中旬までですが、加温すれば通年の藍染が可能となります。藍染液を入れる容器(容量は発酵を安定させるため出来るだけ縦長で大きいものが良いが最低40~50ℓは欲しい)は室内で管理します。PH(アルカリ度)の調整には木灰を使用します。
【化学還元】
還元剤として、鉄粉・亜鉛末・硫黄等を使用。
ハマタイセイは藍染染料としてアイヌ民族に利用されていたのでしょうか
ハマタイセイ(エゾタイセイ)は北海道の海岸に自生するアブラナ科タイセイ属の越年草で、葉中に藍色素(インディゴ)を含有します。同属にヨーロッパの ホソバタイセイ(藍染染料ウォード)があります。
ハマタイセイを使用した藍染の記録はありませんが、タデアイと比べると含有する藍色素が微量なので大量の葉(海岸に大群落)が必要となります。
2016年現在、環境省RDB((レッド データ ブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物)))において 絶滅危惧種に指定されています。
アイヌ民族が藍染を行っていたと仮定した場合の必要条件を示しましたが、それらを満たす物証となるものが存在していないようであることから、ハマタイセイがアイヌ民族によって藍染されていた可能性は極めて低いと思われます。
そもそも、ハマタイセイはタデアイのように切り口が青くならないし、指ですり潰しても青く見えないことから、ハマタイセイに藍色素の存在を知り得たこと自体が疑問に思われます。ただし、薬草として葉を大量にすり潰したとしたら藍を見い出すことが出来たかも知れません。もしくは、漢方薬にタイセイ属の根茎を利用する板根藍(ばんこんらん)があることから、交易によって知識を得た可能性もあります。漢字名の浜大青が如何にも、な感じですが。
参考資料
染織と生活社 「染織と生活 第10 号」(1975)
染織と生活社 「月刊染織α No.5」(1981)
染織と生活社 「月刊染織α No.50」(1985)
染織と生活社 「月刊染織α No.66」(1986)
丹羽真一 2002.利尻島におけるハマタイセイの生育環境と個体群構造.利尻研究(21);75-80,march.2002
閏間正雄 2012.ヨーロッパの藍染め. ウォードの成り立ちと変遷<研究報告>.文化ファッシヨン大学院大学紀要論文集ファッシヨンビジネス研究(2).(2012-03)pp.82-8
深田雅子 2015.アイヌの衣服に見る藍染:その役割と象徴性<研究ノート>.文化学園大学紀要.服装学・造形学研究(46)(2015-01)pp.75-80